蜘蛛

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 それから二年後……、尚人は警察関係の仕事をしている母方の親戚から、久保塚が出所したことを聞いた。  その瞬間、尚人の頭をよぎったのは安堵の思いだった。  これでやっと事故の全てが終わったんだ、そう思った。  あの事故の日から小夜子の物に触れることさえできずにいた尚人も、妻の遺品に向き合う決心をした。  そろそろ僕も、前を向いて歩かなければならない。小夜子もきっとそれを望んでいる……  二人で住んでいた頃のままの室内を見渡しながら、尚人はそう思った。  小夜子の服や化粧品を、ひとつずつ箱に詰めた。懐かしい彼女の匂いが、尚人の記憶を揺さぶった。  手を止めないように黙々と詰めていく。手を止めたら、そこで決心が揺らいでしまう気がした。  そして小夜子の洋服を片づけていたとき、クローゼットの奥に一冊の本のようなものを見つけた。  初めはハードカバーの単行本かと思ったけれど、表紙に『DIARY』という文字が見えて、それが小夜子の日記だと分かった。  尚人はそのときまで、小夜子が日記をつけていたことを知らなかった。
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