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少し後ろめたい気がしながら日記を開くと、小夜子が書いた懐かしい文字が目に飛び込んできた。
最初のページに書かれていた日付は、三年前の九月二日だった。
『今日から日記を書くことにした。だって、とても幸せなこの気持ちを残しておきたいから。今日、私に彼氏ができました』
そんな文章から、日記は始まっていた。
九月二日……、それは尚人が小夜子に交際を申し込んだ日だった。あの日、蒼い月の下で告白したときの記憶が、小夜子の幸せそうな文字とリンクした。
『九月九日……、仕事帰りに二人で映画を観に行った。でも尚くんは途中で寝ちゃった。疲れてたんだね』
『九月二十日……、今日は遊園地でデート。混雑する中、はぐれないようにって尚くんが手を繋いでくれた。とても嬉しかった』
『十月八日……、今日、尚くんと初めてのキスをした。思い出しただけでも胸がドキドキして、頬が緩んでしまう』
日記を読み進めるたび、尚人はタイムスリップをして記憶の中を彷徨った。
そして幸せな日々を思い出しては、悲しみの波に襲われた。
そのとき、肩を震わせながらページをめくっていた尚人の手が止まった。
ある日を境に、日記に尚人以外の男のことが書かれるようになったのだ。
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