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朝起きると、部屋がグルグルと回っていた。頭痛に吐き気、その上、頬が火照っている。
熱を計ってみたら三十九度を越えていた。完全に風邪だ。
憂鬱な気分で課長にメールして、再びベッドへ横になった。
風邪のせいもあるが、あの冷徹な仕事人間の課長に休みを告げなければいけないことが気持ちをずんと沈ませる。
繁忙期の忙しい中、休むと知ったら何を言われることやら。
しばらくして課長から返信が届く。粗方の予想通りに体を気遣うような優しい言葉はなく、業務確認のみだ。
冷たい上司。しかし、彼の指示はいつも悔しいくらいに的確だ。
私は今日、何件かの顧客に連絡をしなければならなかったが、それらはしっかりと別の人間に割り振られていた。
挨拶と仕事の話以外はお互いにあまり喋ることもない無味乾燥な同僚たち。この忙しい時期に休みやがって…みんなの苛ついた顔が目に浮かぶ。
それでも顧客とのトラブルは回避できたことで少しホッとした私は再び眠りについた。
目が覚めた時には夕方になっていた。いったい何時間寝ていたのやら…着ていたシャツは汗でびっしょりと濡れていたが、喉はカラカラだった。
私は冷蔵庫からお茶を取り出し、コップに注いで一気に飲み干した。汗で重いシャツを脱ぎ、熱めのシャワーを浴びる。
まだ熱はあるようだけど、朝よりはマシな状態だった。おそらく過労だろうと思う。
私の職場は男も女もなく、みんな過酷な勤務をしている。
この会社は繁忙期と閑散期がはっきりとしており、この繁忙期に売上をあげないと、それで一年の成績が決まる。課長も、この時期に病欠されるなど、堪ったものではないだろう。
気が重いけど、明日会社に行ったらとりあえずみんなに謝ろう…それとも、これを機会にもう辞めちゃおうかな…そんなことを思いながらまたうとうとと眠ってしまった。
チャイムの音で目が覚めた。
誰だろう?
枕元の時計をみたら二十三時。こんな遅い時間に…
熱もあり、寝起きでぼんやりしていた私は、ついインターホンで確認することもなく直接玄関を開けてしまった。
「課長!?」
そこには上司の姿があった。
少し気まずそうにはにかむ顔は会社では見たことのない表情だ。
「こんな時間に済まんな。今の時期は、どうしても仕事終わらせてからだと、これが精一杯で…」
「え、あの…構いませんけど、どうして?」
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