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父親に言われた通り、次の日から母親はインコのイラストの粟の実を茹で始めた。
食卓に、味噌汁、納豆、焼き魚と普段のオカズの中心に、とてつもない存在感を放って茹でただけの粟の実が置かれた。
家族みんながそれを見ないように食事を進めるが、ニコニコ顏の父親は家族が食べやすいようにカレースプーンを添える。
「体にいいから、みんな食え! 食べんと、お父さんが全部食っちまうぞ?」
むしろそうしてほしい、と思いつつ父親が怒ると怖いので、みんなでモソモソと粟を口に運んだ。
母親も、塩すら入れずに茹でやがるから、咀嚼するたびに口中の水分が取られる。それだけでも苦しいのに、青臭い匂いが鼻から抜ける。
なんの苦行だ、と家族みんなが思いながら父親の笑顔を崩さないように頑張った。
そんな生活が3日続いた夜。
みんなもそろそろ粟の実に慣れてきて、普通に食べられる様になってきた。
母親に至ってはお通じが良くなったと言って、さすがはお父さんだ、と自分の夫を褒めちぎっていた。
しかし、事は急変した。
いつものように食卓の中央に置かれた粟の実を、父親がじっと見つめる。
母親は、何か粗相があっただろうかと心配して、カレースプーンが無いことに気付いた。
「お兄ちゃん、スプーンここにないよ」
家族に緊張が走り、カレースプーンが素早く粟の実に差し込まれた。
しかし、父親は我慢がならないと言わんばかりに、大声で怒鳴った。
「なんで、毎日! 毎日! こんなもん食わにゃならんだ!! こんな鳥のエサ、食えるかー!!」
静まり返る食卓。
驚愕の父親の一言。
誰も「それはあなたが買って来たから」とは言えなかった。
そうして我が家の
「鳥のエサを食べる」
習慣は幕を閉じたのだった……。
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