暴君 父 ミツオ

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「明日から、これを食うぞ。お父さんだけじゃない。みんなで食うんだ」 そう言って父親が持って来たのは、粟(アワ)の実。 今でさえ雑穀米はファミレスにまで用意されているメジャーな食品だが、まだその時は粟の実は鳥のエサという認識の方が強かった。 現に、粟の実の袋にはでかでかとインコのイラストが描かれていた。 「でもお父さん、これ鳥のエサなんじゃ……」 母親が信じられない様子でおそるおそる聞いた。 それに対して父親は堂々と答える。 「体にいいっちゅうから探したら、ペットショップにあった。鳥が食えりゃあ人間も食える。大丈夫だ!」 我が家の父親はいつもそうだ。 どこで聞いてくるのか知らないが、「体にいい」と言われればすぐに試したがる。 「でも、これをどうやって食べたらいいだか……」 今なら米に混ぜ込んで食べる事が当たり前に浮かぶのだが、その時の母親にはまだそんな情報は入っていない。 そしてそれは父親も同じだった。 「茹でりゃ良い。そうすりゃ食える」 言い出したら聞かない父親に、家族みんな黙った。 ……これを明日から……。 不安しかない。
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