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靴音が途切れた。謁見の間の柔らかな絨毯へ膝まづく。
「おお、久しいな。グレンディウス将軍よ」
私は頭を深々と下げた。
「王も御健勝の御事とお慶び申し上げます。して、戦況・・・・・・」
「まてまて、疲れておるだろう?報告の前に饗応を」
ほんとうにこの人はいくつだろうか。若々しい張りのある肌。そこに浮かべる笑みは穏やかで人懐こい。若き王は身軽に立ち、私を招いた。
色とりどりに盛り付けられた料理が目の前に広がる。侍女や側付きの人々がすべて引き下がった。よこしまな話でもあるのだろうか。だが、私はそのために帰ったんじゃない。
「なあ、グレン、そろそろ嫁・・・・・・」
「その前に。現在、デーブ国を攻める準備をしておりましたが、デーブ国領主が降伏をしたいと」
王の顔色がみるみる変わる。激しく口を歪ませ、手を机に打ち付けた。
「誰が許せと申した。あの国はッ、あの国は、何度も裏切りおったのだぞ。それなのにぃッ」
激しい罵声を私はそよ風が吹きすぎていくように聞き流す。真っ赤に顔を染めた王は喉が乾ききってもなお、絶対拒否の言葉を吐いた。
「王、落ち着きなされ」
「落ち着けるかッ」
「落ち着きなされ」
「喧しい!あの国の卑怯さはよく知っておるはすじゃ。あの国は、信用ならぬ。ぶ、ぶっ潰すべし」
私は目を閉じ、一息つく。冷風を視線にのせて王を見据えた。
「落ち着けってんだろうが。王様よぉ。さすがに偽るん、だりぃんだぜ?」
思った以上に低くなった。王の頭からは真珠大の汗がポロリと落ちる。
「第一よぅ、あの国無傷のまんまなんだから、降伏許したれ。何度も裏切ったんはあの小国が生き残るためなんだよ。分かってんか?」
「し、しかし・・・・・・」
「しかもよう、むちゃくちゃ強えんぞ?小国なのによ。あ゛ぁ?どう、いたします?」
王はうなり声をあげながら、口を大きく歪ませる。もう一押しか。
「戦えば、どうなるかわかりますね。私はあなたに仕える代わりに・・・・・・」
「分かってる。民は大事にする誓いは守る」
思った以上に穏やかな声だ。王は暫く目を瞑り、いろいろ呟いていた。やがて、降参、と私に言って、首を縦に振る。
「全く、昔の山賊・・・・・・いや、義賊もよう言うの。確かにの。吾が私情を排除せねばの」
私はやわらかな笑みを浮かべ、その場で敬礼をした。
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