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アルトは振り返り、自分の居た部屋を眺める。
ベットと机しかない四畳程の広さの部屋には何も残っていなかった。まあ元からあまり物は無かったのだが。
アルトの荷物は人の頭程の大きさの革袋に収まっている。元々ここに持って来た物はこの程度だった。
今更名残惜しい訳では無いが、もう二度とここに来ないのかと思うと感慨深い物がある。
ロクな事が無かったが、本当に色々な事があった。
「はぁ……」
溜め息をついてアルトは振り返る。
思い出に耽っていは、ここから出られなくなる。
自分に強く言い聞かせ、アルトは部屋を出た。
そしてその足で、寮の裏口へと向かって行った。
鉄製の重厚な扉を開け、丸太で組んだ階段を降りて行く。
そのまま麓の森へ階段は続く。
もう何度繰り返しただろう。もう何度この景色を見て来ただろう。
森の中は日差しを遮り、涼しい風が通り抜ける。
枝を踏む音と、木の葉が揺れ、風を切る音だけが辺りに聞こえる。
心地の良い音に耳を傾けて歩いていると、次第に視界が開けて行く。
森を抜けたそこには、視界一杯に広がる湖があった。
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