第1章

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「……ただいまー」 もう遅いので、朝型の彼女はもう寝てしまっているかもしれない。 彼女の様子を伺うように、静かに声をかける。 「………………」 薄暗い部屋の中で、寝ているのかと思った彼女が顔を上げた。 電気を点けると僕を見つけて、機嫌が悪そうに大きな瞳を細めて睨み付けてきた。 「ケーキ買ってきたんだ。これ、君好きだろ?」 箱を見せるよう持ち上げると、より一層目を細めた。 「今食べれる?」 「…………」 一言も返さず、斜めに首を一回振った。 ノーの返事だろうか。 そうだよな、こんな時間だ。 この間、ダイエットしなきゃと言っていたから食べるわけもないか。 「じゃあ冷蔵庫に入れておくから、朝ご飯にしようか」 痩せたいけどどうしてもカロリーの高いものが食べたい時は朝に食べる。 そうするとその日の内にちゃんと消費できるから。 以前に彼女はそう言った。 そもそも痩せる必要、無いと思うんだけどな。 僕の見ているのと、彼女の見ている自分の体形はどうも違っているらしい。不思議だ。 最近の彼女の食事が余りにも少ないし、今日なんて朝から殆ど口にしていない。 いっそ今食べちゃってもいいのに。 そんな風に思いながら、そういえば。と思い出す。 『がんばってる自分にご褒美!』 そう言いながらあのプリンを選んでいた。 大好物をとっておきのご褒美に。 賞味期限が今日までだったはずだから、多分今朝にでも食べるつもりだったんだろうか。 それだったら今日の食の細さはハンストだったのかもしれない。 こんなに楽しみにしていたのに、と僕を責めている。
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