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side 藍
最近俺は、なんだかおかしい。
原因はわかっている。
ふとした瞬間によみがえる大きな掌。
変わらないようでいて小さな変化がうかがえる表情。
匂い。
そこまで考えると、胸がキュンと小さく痛む。
「…フユ兄…いまごろ、どうしてるかな」
窓の外は降り続ける雨。
細かい雨で、建物も空も煙って見える。
コの字形になった隣の校舎は体育館。扉は開け放たれ、スパイクの鳴る音と、威勢の良い声が聞こえた。
きっとあそこにフユ兄がいるんだな…そう思うと、焦れったいような、照れくさいような、そんな気持ちが込み上げてきてーー
「どうした?藍」
「うひゃあっ!?」
振り向くと、Tシャツで顎の汗を拭いながら歩いてくるフユキの姿があった。
見事に割れた腹筋が露になっている。
「はふっ、いや…あぅ、その…」
じりじりと後退する藍。
しかし目線はがっちりと、逞しい腹筋に注がれている。
「ごっ…ご、ごめんなさいーー!!」
危うく桃色な想像をしてしまいそうになり、藍はものすごい速さで駆け出した。
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