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「行くよ」
ぐいっと引かれた手に慌てて着いていきながら、通り過ぎる瞬間彼を見上げた。
思ったより高くなくて、まだ困ったような曖昧な表情を浮かべている。
「名前だけ教えて」
「……ゆき」
それだけ、私と彼が初めて会った日に、交わした会話はそれだけだった。
そこに丁度来たバスに乗ってその場を離れても、華ちゃんはまだ緊張感を漂わせて口を引き結んだままだった。
やっと駅前のいつものファーストフード店に着いて、一口二口シェイクを飲み込んでから、しっかり華ちゃんに怒られたのは言うまでもない。
「もう!なに考えてんの?あんなのに名前教えちゃダメでしょ!」
「ごめんなさい、なんかつい……」
「なんかついで、不良に目付けられたらどうするの!ああいう連中は何するか分かんないんだからね?」
「……ごめんなさい」
本当に、つい、だったんだ。
ただ、聞かれたから答えただけ。
華ちゃんは、そんな私を呆れたように見て、ズーッとシェイクを吸い上げてからふぅと息を吐き出した。
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