1、それは暑い夏の日に

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あの人、そんなに悪い人には見えなかったんだけどなぁ。 なんだか夕立でも来そうな重たい空を見上げて、さっきのあの人を思い浮かべた。 雨、降らないと良いなぁ…… パタパタとアスファルトを叩くローファーの音が、なんだか湿っぽい。 空気のなかにいっぱい水分が有るって感じ。 青々とした稲の波の上を、ツバメが低く飛んでいる。 あ……本気で降ってくるかも…… 知らない? ツバメが低く飛ぶと雨なんだって、何でかは忘れちゃった。 前に、畔でヨモギを摘んでたおばあちゃんが言ってたの。 だから、早くお帰りって。 言われるまま少し急いで帰ったら、ドアを開けたあたりでザァーって降ってきたんだよね。 あのおばあちゃんはどうしたのかなって、少し心配になってもう一度傘さして戻ったけれど、もうどこにも居なかった。 おばあちゃんが濡れてなくて良かったって思ったけど、私に教えてくれるくらいだもん、そりゃ雨が降る前に帰るよねぇ。
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