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圭介は、傷だらけの黒いボディをヒビの入ってない方の手でそっと撫でた。
静かな横顔からは察することしか出来ないけれど、労るようなその手を見れば、ずっと一緒に走ってきた記憶が駆け巡っているのが見てとれる。
私も隣で、圭介の身代わりになってくれてありがとうと、心のなかでお礼を言った。
二人の別れの邪魔をしちゃいけないからね。
山だからか、私たちの住む海辺の町とは違った、澄んで少し冷たい風が頬を撫でていく。
それが、さよならって聞こえてなんだか切なかった。
愛車に最後のさようならをして、圭介はもろもろの手続きなんかを引き受けてくれたリュウさんにお礼をいった。
リュウさんは、俺はお前の保護者だからなって笑って、お前はゆっくり骨をくっつけろよーって圭介の頭をわしわしと撫でた。
家の側で車からおろしてもらった私と圭介は、手を繋いでゆっくりと夕方の少し影の長くなった道を歩く。
足が遠退いていた最寄りのコンビニのドアを、久しぶりにくぐった。
「雪ちゃん、いつもの?」
「うん」
朝も食べたのにって圭介が笑う。
うん、決めてたの。
圭介が見つかったらあきるほど食べるって。
水色のアイスキャンディを2つ取ってレジに向かう圭介の後を、服の裾を掴んで着いていく。
痛くないほうの手はアイスキャンディで埋まってるからね。
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