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「ママから電話あったよ」
「なんて?」
「美佳はいい子にしてますかって」
「いい子にしてるもん。いつ帰ってくるの?」
「もうそろそろかな」
優子は昨日から、中学の同窓会のため宇都宮の実家に戻っていた。もうすぐ帰ってくるはずだった。ちょうどよく有給が溜まっていたので、僕は昨日今日と会社を休んで美佳の世話をした。
「あ、パパこれ」
「うん?」
制服から普段着に着替え、うがい手洗いをしてリビングに戻って来た美佳が、一枚の紙を差し出した。
「この前の身体検査。注射痛かったけどね、美佳泣かなかったよ」
「おお。美佳はえらいなあ」
紙を受け取り、広げた。身長109センチ、体重20キロ。生まれたときは2900グラム弱だったから、ほぼ7倍だ。
「そりゃ重いわけだ」
「パパ、もうすぐ3時だよ。おやつは?」
「ああ、テーブルの上にチョコパイあるよ」
「やった! 美佳、チョコパイ大好き」
「知ってる」
身体検査の用紙にその一文字を見つけ、僕は凍りついた。
『血液型 A』
僕はこの時まで、美佳の血液型を知らなかった。病気になった時、病院に連れて行くのはいつも優子だった。
なんだこれは。
なにかの間違いじゃないのか。
A。
何度見ても、そのアルファベットはAだった。
BでもOでもなく、ABの二文字でもなかった。
「ねえパパ、牛乳は?」
美佳の声が、ひどく遠くから聞こえたような気がした。
その夜、美香が寝た後で、宇都宮から戻って来た優子に身体検査の紙を見せた。
「おお、数字見るとおっきくなったんだって改めて実感するよね。スリムにはなれそうにないね。30過ぎて私も、40近くなってパパも太って来たし」
優子が苦笑いを浮かべた。一通り紙を見ても、優子は変わった反応を示さなかった。
「これ、どういうこと」
僕は、血液型の『A』の文字を指差した。
「なにって、A型でしょ。美佳の血液型」
「きみの血液型は?」
「Aでしょ。なによ今さら」
「僕の血液型は?」
「Bに決まってるじゃない。あの新幹線降りた時のプロポーズ、忘れるわけないでしょう?」
「ああ、きみはA、僕はBだ。そして、僕の子供は、絶対にA型にはならない」
「え?」
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