第1章

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「僕のBは、『BB』だ。うちは両親ともAB型で、それぞれからBをもらったからBB。君のAが『AA』でも『AO』でも、『BB』との組み合わせからは『AB』か『BO』しか生まれない。絶対にAは生まれない」  優子の顔が、白くなっていく。 「……BBって、間違いないの」 「ああ。僕は小学生の時に交通事故にあって、輸血を受けたことがある。その時、母親が、『息子は珍しいBBなんですけど大丈夫ですか』って医者に縋りついていた。大して珍しいわけじゃないし、輸血にBBなんて分類はないんだけど」  優子が、下を向いた。 「どういうこと」  否定して欲しかった。勘違いであって欲しかった。  あまりにも長い沈黙の後。 「……たぶん、あなたと出会う前に、付き合っていた人だと思う」  優子は涙を浮かべていた。  泣きたいのはこっちだった。 「誰だ」  問い詰めながらも、僕の頭の中には既に一人の男の名があった。  優子は黙った。 「谷沢部長か」  美佳が生まれたタイミングからして、妊娠したのは僕と優子が出会ったあのループの日の周辺のはずだった。 「不倫していたのか」 「……ええ、そう」 「……全て、話せ」  聞きたくなんかなかった。知らない方が幸せということもある。そんなこと、常識として知っていたはずなのに。 「あの日、あの3連休、私と谷沢は名古屋出張のついでに熱海旅行に行くはずだったの。けど、突然、息子をディズニーランドに連れていかなきゃとかいって、谷沢はキャンセルした。それで私は怒って、困らせてやろうと思って、妊娠したら谷沢も真剣になるんじゃないかと思って、前の晩、谷沢に抱かれる時、安全日だからと嘘をついて、避妊しなかった」  おぞましい想像と、おぞましい推測が、僕の精神を崩壊させ始めていた。 「続けろ」 「けど、翌朝になって、怖くなったの。本当に妊娠していたらどうしようって。谷沢は、離婚して私と結婚してほしいという私の願いを、いつもはぐらかしていた。本当に妊娠していて、谷沢に結婚を拒否されたら、お腹の子はどうなるんだろうって。そんな気持ちで新幹線を降りたときに、あなたから告白されたの」  ああ。  やっぱりそうだった。  何度も何度も口説いた。100度もフラれ続けた。それなのに、あの時の告白だけが受け入れられたのは。
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