2人が本棚に入れています
本棚に追加
「谷沢はB型だった。そして、あなたはあの告白で、B型だって言ってた。初めて会ったわたしに、結婚してください、とまで言ってくれた。私を助けてくれるのはこの人かもしれない。もし妊娠していたとして、父親のいない状態で生まれてくるかもしれない子供を助けてくれるのは、この人かもしれない。そう思ったの」
僕の中で、すべてがガラガラと音を立てて崩れていった。まったく好みでもない僕は、谷沢と同じB型で、すぐ結婚できるというそれだけのことで、優子に受け入れられたのだった。
「谷沢とは、あなたと出会ってすぐ別れました。あなたは本当に優しかった。あなたとの時間は本当に楽しかった。もちろん、美佳もあなたの娘だと信じてた。ついさっきまで、疑ったこともなかった」
なにも、言葉が出てこなかった。
「本当にごめんなさい」
優子は涙をボロボロとこぼしながら頭を下げた。
「離婚、するよね。美佳は私が頑張って育てるから。ごめんなさい。あなたはなにも悪くないのに。本当に、愛してたの。あなたのこと。ありがとう。あなたと出会ってから、ずっと幸せでした」
40を目前にして、僕は再び一人になる。最愛の妻と娘を失って。胸に巨大な穴を抱えた状態で生きていかなければいけない。愛なんてものは、幸せなんてものは、失うくらいなら、はじめから知らなければよかった。
優子と出会ったのが、そもそもの間違いだった。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
声の限りに叫んだ。
エピローグ
目を覚ますと、頬が冷たかった。眼鏡を外し、垂れていた涙を慌てて拭った。
なぜ自分が泣いていたのか。長年の謎の答えを、僕はついに知った。知りたくなんかなかった。知らなければ、ずっと幸せでいられた。
「あと5分ほどで名古屋、名古屋に到着します」
新大阪発東京行きの新幹線のぞみ、6号車7番C席。
何度も何度も過ごした6年ぶりの空間は、あまりにも懐かしく、あまりにも苦しかった。
右のA、B席に座る大学生カップルが名古屋で降りていく。
そして。
「あ、ここみたいですよ」
優子と、谷沢がやってくる。
「失礼します」
谷沢が僕の前を抜けて窓側のA席を目指す。僕は足を引いてやらなかった。二人は、窮屈そうに僕の前を通った。
「急だったけど、取れてよかったですね」
「3連休のアタマだからな」
新幹線が、名古屋を出て動き出す。
最初のコメントを投稿しよう!