第1章

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リフレイン・リグレッツ       プロローグ  目を覚ますと、頬が冷たかった。眼鏡を外し、垂れていた涙を慌てて拭った。  なにか怖い夢でも見ていたのかもしれない。 「あと5分ほどで名古屋、名古屋に到着します」  大阪出張から、東京に戻る途中だった。3連休の初日である土曜午前の車中は、旅行客でほとんど埋まっている。新大阪発東京行きの新幹線のぞみ、6号車7番C席。急に決まった出張で、予約できた座席は3人席だけだった。通路側にスーツ姿で座る僕。その隣のA・B席では、大学生と思しきカップルが仲睦まじく手を握り合っていた。  家に着くのは昼過ぎになる。帰ったら、なにをしようか。  予定などなかった。コンビニで弁当を買って、14時プレーボールのカープの試合でも見ながら食べよう。夕方に野球中継が終わったら。することはない。明日も明後日も休みだが、何の予定もない。 「なにそれタカくん、もぉーっ」  隣のカップルが笑い合っていた。  職場以外で、誰かと会話をすることはほとんどない。週末は誰とも会話することなく、月曜に会社の同僚と交わす挨拶が3日ぶりの会話。そんなことはしょっちゅうだった。  友人たちはみな結婚し、家庭を持ち、それぞれの生活を築いていた。34年の人生で、女性と付き合ったことは一度もなかった。真面目に勉学に励み、世間から一流といわれる大学を出て、一流といわれる会社に入って、酒は飲まずギャンブルもせず、真面目に働いて、同世代の平均の数倍はあるだろう高収入を得て。  なのに、34歳になった今も、僕は一人だった。一生懸命に働き、休日は家で休む。そんな生活を大学卒業後、入社以来12年も続けてきた。女性との出会いなんてどこにもなかった。  中肉中背。一重まぶたに、視力の低いせいか悪い目つき。自分の容姿が凡庸なことは十分に理解していた。僕の容姿が女性を惹きつけるなんてことは、絶対にないと知っていた。  僕は、どこでなにを間違ったんだろうか。 「名古屋、名古屋」  新幹線が停まった。 「楽しみだねえ」  なにかを楽しみにした隣のカップルは、笑いながら降りていった。  降りる人がいれば、乗る人がいる。いくつかできた空席を、名古屋からの乗客が埋めていく。 「あ、ここみたいです」  肩口から聞こえてきたのは、若い女性の声だった。
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