ファーストキスとプロポーズ

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ファーストキスとプロポーズ

「朱音。大きくなったら僕と結婚してくれる?」  幼稚園の庭に植えられた、ひときわ大きな桜の木の下で――。  高月誠(たかつきまこと)が突然、久保寺朱音(くぼでらあかね)にプロポーズをしてきたのは、卒園式が終わった直後のことだった。  来月から小学生だね、同じクラスになれるかな? そんな話をしていた中での一幕で――風に煽られた枝から、花びらがひらりと落ちるような自然さで、誠は何気ない会話に結婚という言葉を混ぜてきた。  朱音と誠は誕生日が一月違いの幼馴染だ。朱音の母親と誠の母親が高校時代からの親友で、結婚してもなお、お互いの家が徒歩一分圏内という近さで生活しているため、二人は兄妹(きょうだい)同然で育てられた。  一緒にいるのが当たり前。  将来もきっとずっと一緒にいるに違いない。  だから朱音も素直に「うん」とうなずいた。  すると突然、誠が朱音に向かって突進してきて、朱音のくちびるに自分のくちびるをぶつけた。まるでボールが顔面に当たったのではないかという勢いと感触だったが、それはたしかにくちびるだった。なぜなら朱音のくちびるが自分のものとは違う何かで微かに湿っていた。 「……何?」  つばがついたことを不快に思った朱音は、てのひらでくちびるをゴシゴシこすった。  そんな朱音の様子を見た誠は、泣き出しそうな顔をしながら朱音をじっと見つめている。 「結婚するって決めた二人はキスをするんだってテレビで言ってた」  なおもくちびるを拭い続ける朱音に、誠は「イヤだった?」とおずおず尋ねた。 「うん……、ちょっと」  正直に答えた朱音の言葉に、誠はあきらかにショックを受けていた。
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