第1章

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  賢太郎事件帳(一)        篁   はるか  京、四條通りに近い、医師、折井玄庵の座敷に、代脈である片瀬賢太郎がいた。目の前には、玄庵の姿があった。 「賢太郎、わざわざ呼び出して済まぬ。実は、お奉行所のお役目のことだ。  今まで、〝遺骸検め〟のお役目を仰せつかっていたが、このわしも、歳がきた。ここで町のものを診て、その合間に〝検め〟のお役目がある。二束のわらじを日々行うことが難しくなってきた。昼夜問わずにお役目がある。  そこで、〝遺骸検め〟のお役目を、賢太郎、お前に託すことにした」  突然の話でびっくりした賢太郎、 「この、わたしに、そのお役目をせよ、とのことですか」 「そうだ。賢太郎も代脈として、もう五年も経つ。この頃では〝若先生〟に診て貰いたいなどと、堂々と言う病人もおる。賢太郎のことを〝若先生〟と呼んでおるんやぞ。  わしも、お前の見立てはなかなかに鋭いところがあると思うていた。  そこで、この際、お役目をお前に託して、わしは、町の人々を診ることにした。  お奉行さまには、既に話を持っていって、お許しも頂いておる。  どうだな、受けてはくれぬか。と言うても、もう既にお前がお役目を果たすことが決まっておるのだ」 「……そこまで、お話が決まっておるのでしたら、わたしの出る幕はございません。おっしゃる通りに致します」 「ならば、明日、早速に、西町奉行所に行ってくれ。奉行所は、お前も行ったことがあるはずだ。わしの供として、〝検め〟のお役目も目にしたであろう」 「分かりました」  と返事はしたが、全くもって、突然な話であり、また、お役目の重さに、どうしてよいのやら、今は混乱している賢太郎だった。 (わたしに〝お役目〟をせよとのこと。だが、わたしは、まだ勉学も究めてはいない。内弟子から代脈と日々町の人々を診てはいるが、あくまで先生のご指示があってこそのわたしだ。そのわたしに、〝お役目〟を致せとのこと。わたしに務まるのだろうか。だが、もうお奉行さままでに話がいっているのならば、覆しようのないこと。ここは、先生のご指示通りにするべきであろう)  〝遺骸検め〟のお役目とは、現在でいうならば、〝検死〟の役目である。  翌日。賢太郎は、西町奉行所にいた。案内をしてもらった人物についていく。と、広間に侍、多分同心だと思った賢太郎は、末席に座った。
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