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「いえいえ、わたしも、急な病の人をたくさん診てきました。病には、刻限などありません。これからも、このようなことが、あるのでしょう。お役目を受けたからには、それなりのことがあると思いました」
「そうか。これからも、頼むぞ」
「はい、わたしは、何もなければ、お調べ書きの部屋におります。そこに居なければ、長屋におります」
そう言って、賢太郎は、同心長屋に戻った。
数日後。賢太郎は、やはりお調べ書きの部屋にいた。先日のおせんの遺骸検めの書面は、既にお奉行の元に出してある。と、そこへ、風間が飛び込んで来た。
「賢太郎、〝おせん殺し〟の子細が分かった。とんでもない事が出て来た。
明日、お奉行がお白洲を開かれる。そこで、お奉行の評定があるのだが、〝おせん殺し〟に、何と、おせんの奉公先である、大和屋の娘が関わっていた」
「では、おせんさんの首を絞めたのは、そのお嬢さんなんですか」
「そうなんや。折井先生のお調べ書きの通りのようなことが、出て来た」
「〝怨恨〟ですか」
「詳しいことは、明日、お白洲にて判明するのだが、大和屋の娘の、縁なき恨みによって、おせんの首に紐を掛けた、というのだ。吟味与力の神山さまが、お取調べされたことだ」
「ああ、それで、おせんさんの首の紐跡が弱かったことが分かりました。女の手では、弱くて力不足だったのでしょう」
「で、お前も、この際、お白洲の様子を見るべきだと、お奉行に申し出た。勿論、与力や同心でないお前が、お白洲の場に出ることはできない。お奉行にお許しを頂いて、控えの間で、評定を聞くことができるように、計らった。何せ、賢太郎、お前の初めての〝遺骸検め〟のお裁きやからな」
「ありがとうございます」
翌日。お白洲が開かれた。白洲の場には、無宿者平助と、大和屋娘おぎんがいた。
お奉行が出座された。一同、平伏。
「今から、〝大和屋使い者おせん殺害〟の吟味を行う。
そこなる、無宿者平助、おせんの頭に石つぶてを加え、命を奪い、その上、おせん所持したる金子を奪いしこと、相違ないな」
「へえ、おっしゃる通りでございます。ですが、その女子、ふらふらとしておりまして、隙だらけでおりましたので、思わず、懐を狙いました。そのまま、後も見ずに、金子だけ頂戴しました」
「では、平助、何故に、その女子がふらふらとしていたのか、子細を存じていたのか」
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