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「いえ、たまたま、河原にて、見かけたものですので、思わず、襲いました」
「人の頭に石つぶてを打てば、死に至ること、存じていなかったと申すのか」
「へえ、まさか、死ぬなどとは思いもしませんでした。単に、ぶっ倒れたのかと」
「では、大和屋娘、おぎんに聞く。おぎんは、店の使い者であるおせんを、桂川へと呼び出した。それも朝早くである。子細があるであろう」
「……、おせんが、うちの手代と、懇ろになっていたと聞きまして、ですが、どうにも心覚えがなく、おせんに聞くためにと、お店が開く前に、呼び出しました」
「ならば、おぎんは、大和屋の手代が、おせんと結びつくのを、禍と思ったのか」
「……、手代のことは、好いておりました。ですが、手代は、おせんに気があるように見えました」
「では、手代と、おせんのことは、関わり知らずと、言うことであるか」
「そうでおます。はっきりとしたことを、知りたくて、河原に呼び出しました」
「ならば、手代と、おせんのことは、おぎんには分からず、一時の情で、おせんの首に紐を掛けたということであるか」
「はい、今となっては、そういうことでございます」
控えの間で聞いていた賢太郎、思わぬことの成行きに驚いた。折井先生が書き残していた言葉、〝怨恨〟だと思った。
「おぎん、人の首に紐を掛け、絞めたとなれば、命がなくなるやもとは、思わなかったのか」
「その時には、もう気が回らなくなっておりました。……気がつくと、おせんは、倒れていました」
「〝おせん殺害〟の子細につき、奉行はこのように考える。
まず、おぎんが、故なき心違いにより、使い者のおせんを河原に呼び出した。そこで、一時の情にておせんの首に紐を掛け、絞めた。しかし、女子故、力が足りず、おせんは気を失っただけとなった。その後、おせんは正気に立ち戻った。但し、まだふらふらとしていた。そこへ、平助が通りかかり、ふらつき足元の怪しいおせんの頭に石つぶてを打ち、金品を奪い去った。おせんが絶命したのは、平助が打った石つぶての傷が元である。これは、〝遺骸検め〟により、明白である。また、おぎんがおせんの首に紐をかけたること、吟味により明らかである。
よって、無宿者平助は、おせんを絶命に至らしめ、なおかつ金品を奪いしこと、重々な罪にあたることにより、隠岐の島に遠島とする。
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