第1章

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 そこへ、お奉行が出座された。一同平伏。 「皆、揃ったか。  では、改めて、皆に見知りおきたいものを、ここに連れてきた。  この度、西町奉行所の配下になった、医師、片瀬賢太郎である。役目は、〝遺骸検め〟のお役目と、その他の、刃傷検めに当たらせる。ここにいる皆に同道することが多くなるので、皆、見知りおくように」 「ははー、承知致しました」 「片瀬賢太郎と申します。どうかよろしくお願い致します」 「お願い致す」  そこにいた全員の声が揃った。 (わっ、えらいことになった。大丈夫なんか)  賢太郎の思いとは違い、その場にいた皆が、賢太郎に、思いを向かわせていた。 「では、皆は、散れ」  お奉行の言葉で、それぞれの同心は、あちこちに去って行った。だが、一人、賢太郎の近くに坐していた同心が声をかけてきた。 「片瀬先生? いやあ、どう見ても、〝賢太郎〟と呼びたくなる。折井先生のお弟子さん?まあ、これから、よろしく頼む。私は、風間と言う」  と風間同心が言った風なのは、賢太郎が、小柄で、童顔に見えたのだ。といっても、賢太郎は二十三になる。風間同心にしてみれば、後進に見えたからだった。しかし、風間の務めにはない、知識を持った人物だと思って、これから先のお役目に必ず出て来るはずだと感じて、風間は声を掛けたのだった。  声を掛けられた賢太郎は、見知りおきのない奉行所で、この同心に、どうしてもつなぎをとっておきたかった。師匠の折井医師がいない、これから、誰か知り合いを作ることが、必要だと、感じたからだった。 「風間さま、どうかよろしくお願い致します」 「これから、〝賢太郎〟と呼んでええんやろか。何か、そんな気持ちにさせられるんや」 「はあ、構いませんが」  賢太郎は、今までの病人の、歳恰好など、毎日見ていたので、この風間同心が、自分より年上であることを察していた。また、自分が、いつも歳若に見られていることも知っていた。 「で、俺は、幾つ位に見える」 「そうですね、二十五歳とお察し致しますが」 「さすが、折井先生のご推薦のお弟子やな。図星や」 「ありがとうございます」 「で、住まいはどうするんや。折井先生は、四條でのお住まい、急を要する時には、ちょっと困ったことがあってな」
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