第1章

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「はい、この人は、どうも身分は使い者、ですが、帯とか胸元に、紙入れやら何もないことが、気がかりです。金子を盗られていたかも知れません。まして、頭の傷、首の絞め跡、この二つが、どうにも繋がりません。この人が見つかった場所を、見てみたいと思いまして、お願いします」  風間とても、賢太郎の言うことには、成程もっともなことと感じていた。風間も、お役目で、いろいろなことに出くわしている。そうして、賢太郎の、人物を見抜く力に感じ入った。さすが、毎日、病の者を診ているせいか、恰好などをよく知っているようだ。 「では、参るとするか」  と言って、風間は、賢太郎ともども、子分を引き連れて、女が見つかったという場所に向かった。 「あの、ここらあたりで、握りこぶし位の石を捜して貰えませんでしょうか」 「分かった」  と言うなり、風間、辰三は、早速に探し出した。  しばらくして、風間が石ころを見つけた。その石ころをじっと見た風間、思わず賢太郎を呼んだ。 「賢太郎」  風間が差し出した石ころ、さすがの風間でも一瞬身構えるものだった。 「見ろ」  その石ころには、血のりがべっとりと付いていた。その上、長い髪が付いていた。 「これは、髪の毛ですね、女の」  と賢太郎が石ころに付いていたものを指した。 「ならば、この石ころが、あの人の息を止めたものと思われます」 「で」 「番屋に行きまして、この石ころが、あの人の頭の傷に合うことを、見極めたく、思います」 「では、そうしよう」  元の番屋に着いた。早速、石ころを、女の頭の傷に当ててみる。ぴたり、とはまった。 「風間さん、あのあたりで、怪しい人物がいなかったかどうか、調べてみて下さい。この石ころで頭を殴りつける、とは、男の力でないとここまでの傷にはなりません。  それと、急に姿を消した女の人がいなかったかどうか、それもあたってみて下さい」 「分かった。おい、辰、寛太にもつなぎをつけて、ここらあたりを探ってくれ」  寛太とは、風間の同輩である筧同心の子分である。 「ああ、ちょっと待って下さい。何なら、この人の似せ絵でも描きましょうか。顔かたちが分かれば、捜しやすいでしょう」  と、賢太郎は、葛籠の中から、携行の筆と紙を取り出し、さらさらと、目の前の女の特徴を描きだした。 「賢太郎、お前、そんなこともできるんか」
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