第1章

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「いえ、絵師には及びませんが、書物を書き写すことは、高値なものを手に入れられなかったわたしには、日々よくあることなのです。書物の中には、図や、絵もあります。できる限り事細かに書き写すことが、自らの勉学に役に立ちます」  と、あっと言う間に、女の似せ絵が描きあがった。 「おお、そっくりやぞ。まるで、生きているみたいや。  辰、これを持って、いろいろとあたってくれ。俺は、この仏が見つかった辺りを探る」 「へえ、分かりました」  風間、辰三が出て行ったあと、残された賢太郎。番屋の小者が茶を出してくれた。しかし、この女の身元が分からない。よって、遺骸を引き取って貰う手はずも整わない。今はただ待つだけなのかと賢太郎は考えていた。  陽も傾きかけていた。もうそんな刻限かと、賢太郎は、思っていた。これからも、このようなことがあるのかと、心した賢太郎だった。  と、乱暴に番屋の戸を開けて、風間が入ってきた。何者かは分からない者を引き連れて、 「この女や。この女をぶちのめしたやろう」  言いざま、風間は、風体の怪しい男を、女の顔を見せるようにして、近づけた。 「旦那、……、顔は分からしまへん。着物は、確か、この人どす」 「ほな、お前が、懐を頂戴したんやな。その、酒臭いところをみると」 「ご勘弁下さい。まさか、まさか、こんなことになるとは。……頭を石ころで、打ちました。そのままばったりと、倒れたんで、確かに、巾着を頂きました」 「ええい、仮牢に入ってろ。お裁きは、後や」  と言うな否や、風間はその怪しい男を仮牢にぶちこんだ。 「風間さん、どうされたんです」 「賢太郎、お前が言うたことで、いろいろと、あたりをつけて見た。
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