第1章

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「いえいえ、病には、あれこれと、いろんな角度から診ないとその根元が見えないときがあります。それと同じです」 「分かった。助かった。これからも頼むぞ」  そう言い残すと風間は探索に向けて走り出して行った。  風間の探索が効を奏したと見えて、あいまい宿のおかみ、おようと、出入りしている遊び人子吉をひっ捕らえてきた。吟味は神山与力が行い、吟味調べ書きに全様が記された。あとはお奉行のお白洲で、お奉行が詮議されることとなった。 「賢太郎」  いつものお調べ書きの部屋にいた賢太郎に風間が声をかけた。 「一平の件で明日お白洲が開かれる。その時にお前が呼び出されることになった」 「このわたしがですか。検め書きはとうにお奉行さまの元に出しているのですが」 「訳は分からん。とにかく、呼び出されたらすぐにお白洲に出られるようにしておけ」 「はい、分かりました」  お白洲が開かれた。その場には、あいまい宿のおかみ、おようと遊び人子吉、そして二助がいた。お奉行が出座された。一同、平伏。 「さて、これより〝遊び人一平殺害〟の件につき、詮議を致す。  およう、一平は常日頃から小遣いと称して、金子をおようからせびりとっていたとある。どうであるのか」 「はい、一平は、職にもつかず、ごろごろとしては、遊びから抜けられず、遊びの金を無心に来ました。それも、しょっちゅうどす。こう、毎度になりおすと、うちの商売に差し障りがでます。これ以上は関わりたくない、と思いました」 「では、遊び人子吉に尋ねる。  おようから、一平を見張れと言われていたのではないのか」 「へえ、そうでおます」 「見張りの隙を狙って、一平を亡き者にせよとも言われていたのではないのか」 「お奉行さま、ちょっと待って下さいまし。ならば、うちが、一平を殺めろと子吉に言うたみたいどす。そのようなことはございません」 「だが、子吉は、一平が殺害された日、一平の跡をつけ、烏丸の店に入って、一平を見張っていた。  一平は、客の一人と喧嘩騒ぎになった。その騒ぎに乗じて一平を亡き者にしたであろう」 「お奉行さま、確かに、一平は喧嘩をしました。ですが、あっしはただ見ていただけでおます」 「子吉、一平の喧嘩相手は、ここにおるぞ。その、横におる、二助だ。  二助、あの時雨の日、店で喧嘩をしたであろう」
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