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「へえ、ですが、ご奇特なお武家さまのお蔭で、それ以上のことにはなりまへんどした。わても酔いが回って、そのあとのことは覚えておりまへん」
「子吉、喧嘩に乗じて、喧嘩相手に、一平殺害の罪をなすりつけようとしたのであろう」
「そんなことはございません」
「ええい、黙れ。
一平は喧嘩の後、すぐに店を出た。その跡をつけ、暗闇で子吉が一平を殺害した。その後、四條のうら寂しいところに、一平を運び、倒れたかのように見せかけた。その後に時雨が降ったので、一平の体の下の地面は濡れなかった。これは〝遺骸検め〟により明白である。
そして、一平の喧嘩相手である二助を利用し、あたかも二助が喧嘩の末に一平を殺害したと見せかけるために、酔っぱらった二助を気絶させ、一平の傍に倒れさせた。だが、その刻限には、時雨が降っていた。よって、二助は時雨で濡れた地面に倒れていた。これも検め方により、明白である。
あいまい宿おかみおよう、遊び人一平を殺害せしめんがための指図を、遊び人子吉に命じたること、殺害したると同じ重き罪に問われる。再吟味と致す。
遊び人子吉、おように指図され、一平を殺害し、あまつさえその咎を何も知らぬ二助になすりつけようとしたこと、これまた重き罪に問われる。まして、人ひとり殺害しておる。再吟味の上、きっと極刑申し渡すであろう。
両名の者、引っ立てい。
さて、西町奉行所医師、片瀬賢太郎、出ませい」
呼び出されて、賢太郎は出て来た。今までのお裁きを聞いていて、さすがお奉行さまだと感心していたのだった。だが、何故に我が身が呼び出されるのかは、分からないままだった。そのまま、お白洲に座る。
「彫り職人、二助。この奉行の顔を見てみい」
「はあ」
二助は、お奉行の顔をじっと見る。
「……、あの、烏丸の店で、わての話を聞いて下さった、〝お武家さま〟とは、もしかして、お奉行さまなんどすか」
「そうだ。
そして、その時に話したことを、風間同心に言ったのであろう。その際に同席していたのは、傍にいる、医師片瀬である。この奉行の似せ絵を描くと言って、二助にいろいろと聞いたのではないのか」
「そうでおます」
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