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「ならば、この死んだ人は、時雨の前に、ここに横たわっていたことになります。体が時雨の雨脚を防いだことと思われます。となれば、時雨の前に、この人は、倒れていたことになります。ところが、職人さんらしい人が倒れていた地べたは、濡れていました。それに、遊び人風な人が倒れていたところには、血の跡がありません。わたしは、この人が死に至ったのは腹の傷もそうですが、血がたくさん流れすぎたのが元だと思いました。時雨降る前に倒れて、体の下の地べたは乾いていたのにも拘わらず、血の跡がありません。この人は別なところで殺められてここに運ばれたものと考えました」
「と言うことは、二人は、同じ刻限で、ここにいたということにならない、と賢太郎は思っているのやな」
「はい、そう考えます」
「ならば、遊び人風な奴は、職人らしい奴が手を下した訳ではないと、賢太郎は思っているのか」
「血のりの付いた匕首は、おそらく遊び人風な人の命を封じたのでしょう。ですが、時雨にあった刻限が、どうも異なるように思われます。
職人さんらしい人は、命永らえております。ここは、風間さんの聞き込みが、大事だと思われます」
「分かった。俺は、その職人らしい奴が運び込まれた折井先生の元に行く。お前は、番屋に運んだ遊び人風な奴の〝遺骸検め〟をしてくれ」
と風間に言われ、賢太郎は、四條の番屋に向かった。
遊び人風な人物の、腹の傷と匕首の刀傷の跡がぴたりとはまった。しかし、この人物は、時雨の前に道で倒れていたのだ。
とそこへ、辰三がやって来た。
「辰三親分、二人の身元は分かったのですか」
「いやまあ、そこの遊び人の身元は、まだはっきりとしないんですが、折井先生のところに運んだ職人は、本人からの申し出によって分かりました。職は版木彫りの職人、名は二助、女房持ちです」
「どこの版元さんなのですか」
「雲草堂といいまして、職人を大勢かかえているそうです」
「ならば、一度雲草堂さんの親方に聞いてみて下さい。その二助さんが人を殺めることができる人なのかを」
「先生は、何か気になりおしたんどすか」
「二助さんが、いつも匕首を持ってうろうろするようには見えません。たまたま、何かに巻きこまれたとも考えられます。
あとは、この遊び人風な人の身元ですね。ああ、また、似せ絵でも描きましょうか。遊び人といっても、たくさんいるでしょうから」
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