第1章

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「おはるさん、これから滋養を付ければ、子は天からやってくると思います。滋養です。余裕があれば、卵を毎日一個位食されるのもよろしいかと存じます」 「今からでも、子は授かるとおっしゃる」 「はい、おはるさんは、身が細っておられます。ですが、今から、滋養の付くものを食されれば、十分に子がやって来ると診ました」 「……、ありがとうございます」  そう言って、おはるは賢太郎を送り出した。手元には賢太郎の書き記した食べ物の一覧があった。 (やはり〝要らぬお節介〟だったかな。だが、わたしは医師だ。気になることは何とかしたいのが、このわたしだ)  風間と辰三は地道に探索を続けていた。地道にである。それくらい今度の一件は、手掛かりが少なかった。二助と話していた〝お武家さま〟はどうやらお奉行らしいので、証人として捜し出すことはできない。あとは二助が喧嘩したという店を探し出すことと、その場にいた人物を見つけることだった。二助と喧嘩したのは殺められた一平らしいのだが、それもはっきりとした訳ではない。探索中の風間、辰三も頭を抱えるばかりだった。 「賢太郎、何かいい知恵はないもんか」  ついに、風間は賢太郎に声をかけた。賢太郎はいつものお調べ書きの部屋にいた。 「風間さん、どうされたんですか」 「いや、ちょっと行き詰って、お前の知恵が欲しくなったんや」 「風間さん、〝草の根をかきわけてでも〟といいますね。その通りに、するしかないのではありませんか」 「そうは言っても、こう、手掛かりが少ないと、どうすればいいのか、分からなくなってきた」 「風間さんらしくもありませんね。いつもの、そう、執念みたいなのがないようです。ここは一番の踏ん張りどころだと思います。  例のあいまい宿はどうなりましたか。怪しい人物でも浮かびましたか」 「うむ、いることはいた。だが、はっきりせんのや」 「では、〝初手に戻る〟にしてみてはどうですか」 「とは」 「二助さん、一平という人が見つかった、四條に近いうら寂しいところを、洗い出すんです。大の男が倒れていたんですよ。まして、一平は、時雨の前に倒れていたと思われます。人目があってもよさそうなものです。四條の近くとなれば、例えうら寂しいところでも、誰かの目に付いていてもおかしくありません」 「そうやな。さすが、賢太郎、俺らからは違う目線でものを見ている」
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