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「ならば、胡蝶が奉行所に来た日、今日川で見つかった日の間には、二日ありますね。その二日の間に、胡蝶がいつも出張るところに近いあいまい宿を探って下さい。奉行所にも来ない、いつものところにいないとなると、どこかに入り込んでいるようだと見ました」
「分かった。
なあ、賢太郎。ここにおるからといって、くよくよするなよ」
「はい。別段、気にも留めてはおりません。お奉行さまには、何か策をお持ちなのでしょう。わたしはここから出られませんので、風間さん、よろしく頼みましたよ」
「では、出来る限りのことは、やってみる。とにかく、やるだけや」
そう言って、風間は、牢から離れた。
次の日は、風間は筧とともに、賢太郎が言ったあいまい宿をしらみつぶしにあたった。と、一軒のあいまい宿のおかみが、おとといの晩のことを話出した。
「へえ、うちはこんな宿どすから、お客のお名前素性など、聞きもしまへん。ただ、男の方は若くて、きりっとしていて、女の方は、手ぬぐいを頭から掛けていましたので、顔は分からしまへんどすが、えらい色の白い女やと思いました。
その晩は、そのままお泊りで、次の昼、お部屋に行きますと、姿がおません。まあ、こんな商いどすから、お代は前払いどして、障りにはなりまへんので、そのままにしておりました」
「どの部屋に案内したんか」
「こちらどす」
と風間はおかみに案内された部屋に向かう。とその部屋は、表の入り口を使わなくても外に出られるところだった。
(ここなら、宿の者に見られずに部屋を出られる。そのままふけても、宿代は前払いなので、お構いなしか)
ここで、賢太郎がいれば、おかみから男の似せ絵が描けるのだがと、今度ばかりは、頭を抱える風間だった。
そこへ、筧がやって来た。あいまい宿のおかみの話をする。
「なあ、風間、胡蝶は、若くて端正な顔立ちの男を引き込んでいた。賢太郎の似せ絵がなくとも、それらしい男の聞き込み位はできるかも知れんぞ。ましてや、夜遊びの好きな男や。遊び金位は持っている男で、ここらあたりに出入りしているとのあたりを付けて、聞き込んでみる、としてみたらどうや」
「成程、そうやな。それで行こう」
風間、筧、それぞれの子分二人、四人掛かりであちこちあたりを付けた。
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