第1章

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「そうなのですが、どうも気になります。着物の着付けかたも、普通の町娘みたいではありませんでした」 「ま、浮いた噂一つない賢太郎に、女が絡む。お前だって、いい歳なんやないんか」 「風間さん、わたしは医師です。それに、お役目もあります。噂などとは、困ります」 「賢太郎、えらくむきになってるやないか。単に鼻緒をすげかえてくれた、それだけやったら、それだけや」  そう言い残して、風間、辰三は夜番の引継ぎにと奉行所に向かった。  賢太郎の落ち着かない心持ちが、現実となった。  翌日であった。いつものお調べ書きの部屋にいた賢太郎に、門番の係りの者が、門まで来て欲しいと告げた。我が身を尋ねて来る者など、いないはずだと心覚えもなく、ともかく門近くまで来た賢太郎だった。門の傍にいたのは、昨日の女だった。 (何故、わたしのことを知っているのか。わたしの名前まで知っているのか。どうしてここが分かったのか)  勘働きが走った。ここは、居留守を使い、女をこの場から去らせることが肝心だと賢太郎は思い、門番の係りにそっと頼んだ。その際に、女の名前を聞いておくようにと言付けた。  門番の係りは、女を奉行所から出し、女の名前を聞いてくれていた。  女は、『胡蝶』と名乗ったと言うのである。 (『胡蝶』、まるで源氏名みたいだ。何者か。心覚えなど、全くない。おまけに、何の企みでもあるのか。わたしの居所まで突き止めるとは、どういうことなのか)  ここは、風間の手を借りることに決めた。町廻りではない賢太郎には、自らでの探索が無理だと分かっていた。そうなると、得意の似せ絵を描きだした。だが、『胡蝶』の顔を思い出すと、あの独特の眼がちらついて、どうにも心が落ち着かない。だがまあ、何とか似せ絵が仕上がった。あとは、風間が戻って来るのを待つだけとなった。 「風間さん、お戻りのところ、済みません」 「どうした」 「この女なのですが、風間さんも昨日ご覧になった女が、今日、わたしを訪れて来ました。わたしには心覚えがないので、居留守を使いましたが、この女、『胡蝶』と名乗り、わたしを訪れて来たとのこと。昨日も言いましたが、どうも、おかしなことなので、町廻りでお忙しいのは承知しておりますが、身元を洗い出して貰いたいのです」 「『胡蝶』というのか。妙な女やな。
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