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尼御前、すると、二十歳より前に、色の道に走ったことになる。その、色の道に入ったきっかけがあるはずだ。尼寺の修行があろうに、戒律を犯したことになる。何か曰くがあるのではないか。
「もうちょい、詳しいことは分からんか」
「いえ、わてには、それ以上のことは分からしまへん。それに、胡蝶はこわい女子どす」
「なんぞあったんか」
「危ういところで、精を抜きとられそうになりおした」
「どういうことや」
「……」
「そうか、済まんかったな。まあ、もう一本いこか」
「おおきにどす」
その場はそれで済ますことにした風間だった。何かがある、そう感じた。その胡蝶がいたという尼寺を捜すのが手掛かりだと思ったのだった。
(明日からは、昼番に換えて貰おう。尼寺を捜さへんといかんようや)
尼寺は数が少ないとみて、これなら捜しやすそうだと思った風間、とんでもないことだと思い知らされた。尼御前は仏に仕える身なので、世俗から離れたところで修行している。ということで、尼寺は人里離れたところに位置していた。それもぽつりぽつりと点在していた。
風間本来のお役目もあるので、胡蝶がいたらしい尼寺を捜すのには、時がかかった。胡蝶という名もあてにはならない。どうも源氏名らしいので、尼寺では分からないだろう。本名(俗名)も知らないので、尼寺では何と呼ばれていたのかも分からない。ともかく、抜けるような色白の肌を持ち(尼削ぎにしていても髪の黒さで余計に際立つであろう)眼の鋭さは図抜けていると見えるに違いない。風間も目にした、人の心を吸い込むがごとくの眼である。その手掛かりだけを頼りにして、毎日探索を続けていた。辰三は、何であちこち引きずり回されねばならないのかと、不満だらけだったが。
今日は、西山あたりを回っていた。山裾に〝月光院〟という尼寺があった。早速に風間は、胡蝶の姿を伝えて、知らないかと、若い尼僧に問う。と、その尼僧が、奥に案内してくれた。庵主が出て来ると聞かされていたので、おとなしく堂内に座って待っていた。
庵主が出て来た。齢の頃なら、五十は過ぎ、信仰の道一筋を歩んできたようである。
「今日はどのような御用でおますか。ここは、本来殿方がお出入りできるところではございません」
「ご無礼ではございますが、お調べのことで参りました。
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