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庵主さまに世俗のことをお伺いするのは、失礼とは思いましたが、お教え願いたく、罷り越しました。
先ほど、お取次ぎのお方に申し出ましたように、顔の色図抜けて白く、まなざし鋭い尼御前が、庵主さまの元におられたか、お伺いに参りました」
庵主、やはりとの思いがあった。いつかは、誰かが、問い合わせに来るであろうと、覚悟の身であった。ここは、事の次第を話さねばならないかとも思った。
「智蓮のことどすな。俗名は、笙子と言いまして、さる高貴な方の子として生を受けました。どすが、産みの母との身分違いで、その家での養育が叶わなくなりおした。智蓮の母御がその家にいることができなくなり、その高貴な方は、智蓮をこの庵で引き取ってくれるように頼み込みました。その後、智蓮は何事もなく、この庵で過ごしておりおした。勿論、仏に仕える身のことは、この庵主が教えました。
ところが、二年位前どすか、急に姿を隠しました。この庵主、仏に仕える身であるので、姿隠した智蓮の居場所を探す手づるも分からずに、今日までおりました」
話を聞いた風間、この庵主が智蓮、いや、今では、胡蝶と名を変えての生業のことを語るのには、かなり酷だと思った。しかし、言わねばならぬとも感じた。
「庵主さま、本日訪のうたことは、その智蓮さん、いや今では、『胡蝶』と名を変え、春をひさぐ生業をしておりまして、尼御前が、何故にかようなことに身をやつしたのか、何か訳でもあるのかと、問い合わせに参りました」
庵主、まさか、智蓮が、胡蝶と名を変え、春をひさいでいたとは思わなかったので、驚く。
「お役人さま、それは、誠でございますか」
「はい、申し上げるには心苦しいことではございますが、本当です。そして、あの眼に引き込まれた者が、次々に〝精〟を抜き取られたと申すのです。
ここは庵主さまの存じておられる、仏に仕える身の人たちがいるところです。それが、どういうことで〝煩悩〟に身を投じたのか、智蓮さんの心持ちが何か分かるかと思い、参りました」
しばらく、庵主は、沈思していた。
「……、あの、智蓮が、そのような生業に身をやつしていたのどすか。
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