第1章

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 夕刻。風間が戻って来た。早速、賢太郎は昼間見たお調べ書きの要点を記した自身の書面を風間に見せた。 「風間さん、以前の件はこういうことです。今、起こっている事柄と照らし合わせたいので、皆さんの町廻り日誌を見せて頂く訳にはいきませんか」 「ほう、よう調べたな。まとまっている。これなれば、皆の聞き込みと合わせられる。では、皆の日誌と合わせてみるとするか。賢太郎、お前が記した書面をしばらく貸してくれ」 「はい、分かりました。そうおっしゃると思いまして、まとめてみました」 「明日、早速にでも、皆に図る。この後は、賢太郎、しばらく待て」 「はあ」 「以前のことはそうだったかも知れん。が、今のことは、皆の日誌と照らし合わせねばならない。物知りのお前や。分かるやろ」 「ええ、そうですね」 「だから、ちょっと時を貸してくれ」 「分かりました」  風間は賢太郎のまとめた書面を町廻りの同心たちに見せていた。すると、何とはなく行方知れずの女子の子細のようなものが現れてきた。今起こっている全てにあてはまることではなかったのだが、概ね、「高利と知りながらの借金の挙句、娘の身売り」が多かった。だが「高利の借金」はご法度のはずだ。金貸しの株を持っているものは、定められた金利で貸すのが当たり前なのだが、ご法度がまかり通っているのならば、そのことを見つけ出さなくてはならない。同心たちの意見がまとまった。  「高利で金を貸している人物」を探り出すことだ。また、行方知れずの女子の親も探し出すことになった。  親捜しは、容易いだろうと風間は思っていた。行方知れずの娘を持つ親なのだ。行方知れずだとお届けした親である。届書をあたればすぐに分かるだろう。  風間たち同心は、お奉行に上申して、探索の方針の確認をした。お奉行からは、そのまま探索を始めるようにと、指示があった。これで当面の方策ができた。  同心たちは二手に分かれた。「親捜し」と「高利で金貸し」の人物捜しである。  「親」は届書で、すぐに突き止められた。問題は「金貸し」であった。借りたであろう親たちが、なかなか貸主の名を言わない。何か口止めされているようなのだ。訳は分からないのだが、どうも娘のことで、言わないようにきつく指図されていると、同心たちは探っている間に感じとっていた。  風間は、娘がいなくなったと届けた小間物屋巳之助、おせんのところに来ていた。
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