第1章

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「折井先生からの、直々のご依頼です。おせんさんはどうされてますか。わたしは、医師です」  医師と言われ、途端に薬礼のことが気がかりになった巳之助、 「おせんは、三條におられる津田洋石先生に診て貰っておす。……ここのところ、通ってはおりまへんが」 「巳之助さん、薬礼なら、ご心配はいりませんよ。折井先生は無理なことはおっしゃいません」 「そうどすか。では、こちらへ」  とおせんのところへと案内された。 「では、失礼します」  まず、脈をとる。少し早い。顔色は青ざめている。息遣いが荒い。咳もある。 (労咳か。あまり滋養になるものも食していないようだ。これではますます労咳の症状が悪くなる。何とか今のうちに手をうちたいものだ) 「先ほど、三條の津田洋石先生に通っておられたとお聞きしました。どのような薬を処方されているのか、見せて頂く訳にはいきませんか」 「……それが、その、薬礼がたまってお支払ができないので、今は薬を頂いておりません」 「失礼ですが、いかほどですか」 「はあ、お恥ずかしいことどすが………、五十匁ほどどす」  賢太郎、その三條の津田洋石なる医師が、どのような見立てをしたのかは分からぬのだが、五十匁とは大金だと思った。ここは、一服でもよいから、折井先生に投薬のお願いに上がらねばと考えた。 (だが、待てよ。今日は親元に初めて来た。これからもこのようなことが山積みなのだろう。その度に折井先生にご厄介をかけることになる。それはいくらなんでもまずい。とにかく、その津田洋石という医師にあたらないと、子細が分からない)  ここは、一旦奉行所に戻って、風間に相談せねばと、 「巳之助さん、今日のところは、折井先生にお伝えしますので、わたしはこれで失礼します。おせんさんには、滋養のつくものを食されるようにお願いします」  とおせんのところを辞した。その足で奉行所に戻り、風間の町廻り戻りを待った。  風間が戻って来た。風間は金貸しをあたっていた。 「風間さん、お戻りのところすいません。  今日、巳之助さんのところに行って来ました。巳之助さんはおせんさんの病のために、三條の津田洋石という医師にかかっていて、薬礼がかさんで、今は行ってないとのことですが、その薬礼がたまって、五十匁というのです」 「五十匁? 五匁ではなくてか」
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