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「やっぱり、仕事をして欲しおます。お酒も断てば、職も見つかると思います」
「では、〝おやす死亡〟の件につき、奉行はこのように考える。
おなつはいつもの通り、隣家のおとしにおやすを預けて茶屋に向かった。おとしは、急な用事ができたので、その場にいた浅吉に少しの間だけおやすを預けた。おやすが泣きだした。浅吉はあやすも、泣き止まない。思い余った浅吉はおやすを揺さぶった。その力が強すぎ、また、心中、苛つきの度合いが増してきた。揺さぶった挙句、おやすを投げ落とした。そのために、おやすの首の骨は折れ、絶命となった。このことは、〝遺骸検め〟により明白である。
浅吉、このようなことになったのは、そちの心中に日々の鬱屈があったように思われる。よって、知らぬうちに、子を投げ飛ばしたとみる。確かに、不慮のこととは申せ、大工の職を追われた。そこから酒に頼る日々となったかも知れぬが、子、それも血を分けた我が子を投げ飛ばし、幼き命を絶ったること、重き罪に問われる。再証言を得た上で、再吟味と致す。受牢を申しつくる。
浅吉、詳しいことはまた問うことになるが、おやすの死の元となったのは、浅吉の心構えであろう。浅吉には、まだ家族というものがおろう。おなつである。おなつの心情を思い、今後のことを、よく考えよ。また、浅吉は、歳若である。これからも生きる道は続くのである。考える時はたんとあるのだ。
本日の白洲、これまで」
「賢太郎」
呼び止められて、賢太郎は振り向いた。そこには、風間がいた。同心詰所へ、と誘(いざな)いながら、
「今度のお白洲は、みんなお前の見立てが全てやったやないか」
詰所の片隅の、いつもの賢太郎の居場所で、二人は話出した。
「いえ、そんなことはありませんよ。いつものように、風間さん、辰三親分の聞き込みがあったからですよ。わたしはただ診立てただけです。
しかし、幼子の死は、つらいものがありました。いかに曰くがあろうとも、幼子の命を絶つのは、酷いこと、実の親ならなおさらに酷く感じました」
「そうやな。俺も死人には出くわした。せやが、幼子には会わなんだ。そのせいか、何かつらいもんがあったように思う」
「浅吉の心中、分からない訳ではありません。が、命を絶ってしまった。この先がある、幼い命です。そのことを、浅吉はどう思っているんでしょうね」
「せやな」
と、風間は遠い目をして、言った。
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