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「どうですか、風間さん、この後はお役目ないのでしょう。わたしは、辰三親分にお願いがありますので、付き合って下さい」
「どんなことなんや」
「親分は、わたしのことを、いつも〝先生〟と呼ばれますので、もうやめにして下さい、とお願いするつもりです」
「何でや。賢太郎は〝先生〟やないか。どこ恥じることない、立派な先生やぞ」
「いや、その、わたしは、まだまだなところがあります。自分でよく分かっているつもりです。なのに、〝先生〟と呼ばれるのは、いささかおこがましいと言うか、何というか」
ばしっと、風間は賢太郎の肩を叩いた。
「先生、しっかりしてくれ。これからも、俺たちを助けてくれ」
「助けるだなんて、いつもお二人が走り回ってくれるからですよ。
では、お願いと、験直しに、出かけましょうか」
「どこへ行くんや」
「今日は、河原町あたりでも行きましょうか」
「まさか、一杯〝二十文〟の店か」
「違いますよ。お安いですが、ちゃんとしたお店です」
「ほな、辰を呼んで来る」
と風間は、辰三を呼びに、同心詰所を出て行った。
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