第1章

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「大きな声では言えませんが、どうも、浅吉が、この子の命をおとしたようです。訳は分からないのですが、この子を力まかせに畳に打ち落とした、打ちところが悪くて、首の骨が折れ、絶命したと思われます。もし、母親なら、打ち落としたりはしないでしょう。まして首の骨を折るところまでにはならないでしょう」  風間、何度も死人には出くわしている。しかし、幼子にはあわなかった。だからかも知れない、不憫さを感じたのだ。ここは、浅吉をぜひとも探さなければ、この子が浮かばれない。ここは、賢太郎の言うことが大事だと思った。 「辰、ここは任せたぞ。俺は聞き込みや」  言うなり飛び出して行った風間。 「旦那、旦那、どっちへ」  もう風間は行ってしまった。といっても、当てなしで飛び出した訳ではなさそうで、まずは長屋の誰かに、浅吉の職、仕事場を聞き込んでいた。  何でも、浅吉には、決まった職はなく、女に食べさせて貰っているらしい。その女との間にできた子が、さっきのこと切れた子だったようだ。  では、その女を見つけることが先決だと、風間は走った。女の居所へと。  女は茶屋で働いている、おなつというらしい。河原町近くの茶屋とのことで、風間は向かった。茶屋の稼ぎなど、たかが知れているだろうと思った。  何軒か茶屋を当たった。何軒目かで、 「邪魔する。ここに、おなつという女が働いていないか、聞きにきた」  出て来た若そうな女が、 「うちが、なつどす。旦那、どうかなさったんどすか」 「おなつ、お前には子がおるんか。また、亭主の名は浅吉と言うんか」 「へえ、そうどす。うちの子、やすがどうかしたんどすか。うちの人に何ぞあったんでおますか」  ここは、事をはっきりと告げたほうがいいのか、言わぬのがいいのか、迷っていたが、 「お前の子、おやすが死んだ。浅吉はどこへ行ったのか、姿が見えん」 「ええっ、おやすが、おやすが、死んだ、まさか、まさか、うちが家を出た時には、元気一杯で笑っておました。旦那、どうなって、何があったんどすか。おやすはいつもの通り、隣の人に預けてきました。だからうちの人はおやすのことは知らないはずどす。それにうちの人のことは、わかりまへん」  おなつは取り乱していた。幼子おやすの死のことも、知らないようだ。 「こんな時に悪いんやが、浅吉はここに来たんか」
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