第1章

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「だが、肝心の浅吉が見当たらん。どこに行ったのやら」 「浅吉の出自とか、おなつさんと出会ったきっかけとか、いろいろと手づるはあると思いますよ。普段うろうろしているところとかも、出入りしているところとかもです」 「ああ、また地道に、か」 「そうです。風間さんの得意とするところではありませんか。  でも、変ですね。おなつさんは、いつも通り、隣のおとしさんに子を預けたと言ってましたね。それが、何故、おなつさんの家で子が倒れていたんでしょうか」 「やはり、浅吉の線か」 「それしか、ないようです」  風間、辰三は地道に聞き込みをしていた。  分かったことは、浅吉は大工だった。だが、仕事中に材木が倒れ込んで来て、浅吉の左腕が折れた。折れた腕の傷は治ったが、大工の職に必要な左腕が不自由になり、大工としての浅吉がいられなくなった。浅吉の親方が言うのである。  やけを起こして、昼間から酒びたりの日々、河原町近くでぐでんぐでんになっていた浅吉を介抱したのがおなつだった。それがおなつとの出会いだった。  おなつが浅吉を不憫に思ったのかは分からないが、二人は一緒になった。だが、浅吉の大工としての職はできなかった。そこで、浅吉は日々のたつきをおなつに頼っていた。そして、おやすが生まれた。おやすが生まれても、おなつは茶屋で働いて、二人を養っていた。 (とすると、また酒びたりの日々なのか。普段も酒にどっぷりな日々なのか。盛り場をあたってみるのがいいか)  などと思っていた風間だった。浅吉のいつもの日々はどうなのか、長屋の人にも聞かねばならないとも思っていた。  まずは長屋へ行こうとした風間あったが、今長屋は取り込んでいるだろうと思い直し、盛り場に向かった。  だが、どこへ行っても、浅吉と言う者は来てはいない、との返事があった。 (浅吉がいつも飲む店とは、どこなんや)  かなり場末にやって来た。ここでも、浅吉と言う者はいない、とのことだった。頭を抱える風間。もう一度、河原町に出直して、おなつと出会った近くを洗い出してみることにした。河原町の店でも、浅吉は知らないと言う。風間と辰三は、河原町をぐるっと一周してみた。  と、そこには、酒そのものを商いする店があった。ただ、店の片隅に、立って酒を飲むところが設えてあった。風間は、主に、 「この場所で、酒を飲めるんか」
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