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風間は、浅吉がおやすの死を知らなかったことに驚き、ここは賢太郎を呼び出したほうが話が早くなると感じて、辰三に賢太郎を呼んでくるようにした。
「今、診立てた奉行所の医師を呼んでいる。詳しいことは、その医師から聞くがええ」
と賢太郎が来るのを待つことにした。
しばらくして、賢太郎が走り込んで来た。また辰三に〝先生〟と呼ばれたのか、少し不機嫌そうな表情を残してはいたが。
「片瀬、おやすの診立てを、浅吉に言ってくれ」
「わたしは医師です。風間同心に呼ばれて、長屋に行きました。畳の上で横になっている子を診ましたが、すでにこと切れていました。その後、起こそうとすると、頭が変にねじまがったので、子細を検分しますと、首の骨が折れていました。このようなことになるのには、子を投げ落とすことしか考えられません。また、男の力でないと、こうはなりません。よって、わざとの行為があったと、見做しました」
「浅吉、どうや。心覚えはあるんか」
「……いえ、何も覚えておりまへん。ほんまに、おやすは死んだんどすか」
風間、考えていた。
「浅吉、隣のおとしから、おやすを預かっていたのは覚えているんやな。では、お前とおやすが二人きりになった。誰も見てはいない。おとしは、おやすをお前に預けたと言うやろう。おやすは、死んだ。
しばらく仮牢に入っておけ」
そう言ったあと、風間は、浅吉から聞いたことを賢太郎に伝えた。
「では、浅吉は、何も覚えていない、と言うんですね」
「そうや。隣のおとしからおやすを預かったことまでは覚えているという」
「こうなると、お奉行さまに裁定を下して頂かねばなりませんね。長屋では、浅吉とおやすが二人だけになった。誰も見ていない、となりますと、あくまでも医師としての診立てしか、残ってないようですので、わたしはこうでした、としか言うことができません」
「では、お白洲か」
「そうですね、吟味方でも、今と同じ答えを返すでしょう。浅吉は」
賢太郎が言った通り、お奉行はお白洲を開かれた。当然、賢太郎も呼ばれていた。
お白洲には、浅吉、おなつ、長屋の隣のおとし、浅吉の元親方、そして賢太郎がいた。
お奉行、ご出座。一同、平伏。
「これより、〝千本四條下、長屋店子、おやす死亡〟の件につき、吟味致す。
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