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おやすの母、おなつに聞く。当該日時の朝、いつものように、おやすを長屋隣家のおとしに預け、働き先の河原町の茶屋に向かったとあるが、相違ないな」
「はい、さようでございます」
「では、おとしに聞く。毎朝のごとく、おなつから、おやすを預かっていたのは、誠か」
「はい。ですが、その日は用事ができおしたんで、丁度父親の浅吉さんがいましたので、浅吉さんにみて貰うようにお願いしました」
「元大工浅吉に聞く。おとしの言う通りに、おやすを預かったのか」
「はい、『ちょっとの間だけみて欲しい』と言われましたんで、みました」
「浅吉、その後のことは、いかが致した」
「おやすが泣きだしました。あやしても、泣き止みません。あやして、あやして……
……覚えておりません。気がつくと、おやすが畳の上で横になってました」
「奉行所医師、片瀬賢太郎に聞く。おやすを見た時の様子はいかがであったか」
「風間同心に呼ばれまして、長屋に駆けつけました。畳の上で横になっているおやすの脈をとりました。既にこと切れておりました。抱き上げようとすると、頭があらぬ方に向きました。そっと降ろしまして、検分致しますと、首の骨が折れておりました。このことは、子を投げ落とすことによる骨折からきた絶命と診ました。それも、男の力によるものと判断致します」
「大工親方、千五郎に問う。元大工浅吉の仕事ぶりはいかがであったのか」
「あんなことさえなければ、今頃は、腕も上がっていい大工になるはずどした。材木さえ落ちて来なんだら、大工を辞めんでも済んだんどす。おかげで、今は酒なしではおれんようになってしもうて」
「では、浅吉は、酒を毎日のように飲んで、職にも就いていないのか」
「そうでおます。おなつさんが、たつきをたてておます」
「おなつに聞く。浅吉は職にも就かず、毎日酒びたりの日々を送り、たつきはおなつに頼る毎日であるのか。浅吉とおなつの子、おやすの面倒もみないのか」
「へえ、うちの人はあんなことになって、大工の職を手放しました。それで酒に頼っておりました。酔っぱらったうちの人を助けたのが縁で、一緒になりおしたが、職にも就けず酒とも切れずにおりおした」
「おなつ、浅吉のことは、どのように思うておるのじゃ」
「へえ、こんな人どすが、やさしいところもおます。……ただ」
「ただ、どうした」
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