17人が本棚に入れています
本棚に追加
門を抜けると玄関まで十二個、飛び石が続く。両側のツツジの植え込みは綺麗に剪定されている。大工藤センサーの社長宅だから大層立派なお屋敷なのだろうとは思っていたが想像以上で、庭には手入れの行き届いた芝生が広がり、俺の肩くらいまである庭石が隅の方で静かに落ち着いた存在感を示す。池がないのは単なる嗜好の問題だろう。日本庭園を前にずっしりと佇むのは、木造瓦葺二階建ての陽当たりのよい日本家屋で、しかし決して古くはないことが基礎の高さからうかがえる。
リビングは俺のアパート一室分よりも大きな洋間で、洗濯が大変そうなふかふかの絨毯と、掃除が面倒くさそうなシャンデリアが、趣味としては多少古めかしい。
大工藤くんは俺たちを上座のソファに座らせて一旦部屋の外へと消えた。すぐに戻ってきて対面に座る。ここまでの動作は来客応対として手慣れたもので、もしかしたら父親の仕事に同席したりしているのかも知れない。
「幽霊のことですよね」
「ああ。出来るだけ具体的に頼む。まず、幽霊を見たってのはいつの話?」
「先週の土曜日の夜です。忘れものを取りに学校にいったんですけど、そしたら校門前にいる銅像が歩いてたんです!」
「銅像?」
俺は隣に浅く腰掛ける美奈ちゃんに意見を求めた。
「うん。校門を入ったところに、おじさんの銅像があったの。昔この辺りを開拓した功労者で、何とかって人」
「二宮金治郎?」
二宮金治郎は小田原とか北関東の農地改革や営農指導に功が有る人物で、その勤勉孝行ぶりから全国各地の小学校に銅像が設置されている。薪を背負って書物を読みながら歩いている銅像だ。彼ならちょっとくらい出歩いたって文句は言われない。
「ううん。良く知らない人。二宮金治郎だったら私だって知ってるよ」
「そんな銅像があったのか」
この夏休み、ある事件で美奈ちゃんの小学校に行ったことがあるが、見た記憶がない。
「この前設置されたばかりだよ。開幕式には市長とかも来てたから、故郷新聞にも載ったし」
最近設置されたばかりの銅像が歩く。まさかロボットだったなんてオチじゃあないだろうな。
「それで、どこを歩いてた?」
「校庭です。校門と反対側の鉄棒のあるあたり。東門に向かってました」
「東門? 外に出たのか」
最初のコメントを投稿しよう!