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「わかりません。それに、それだけじゃなかったんです。三階の音楽室に飾ってあるポスターに睨まれたし、廊下を昔の日本兵が歩いてました!」
現代に日本兵はいないから『昔の』なんてつけなくてもいいけど、そんな人が歩いていたら夜でなくても確かにちょっと怖い。廊下を日本兵、校庭を銅像が散策する小学校なんて秋の夜長には風流すぎて、タヌキも踊りださないだろう。
「それを見たのはどういう順番だった?」
「最初が歩く銅像です。六時半ごろだったと思います。それで驚いてたら今度は何か光った感じがして。そしたら音楽室の肖像画に睨まれたんです。いままで睨まれたことなんかなかったのに。それで慌てて逃げようとしたら今度は廊下に昔の日本兵がいたんです」
「日本兵からは睨まれなかったか」
「はい。たぶん気付かれなかったんだと思います。僕もすぐに隠れたんで」
「そうか。それで?」
「昔の日本兵がいなくなるのを待って、帰りました。走って家に着いた時は七時すぎてました」
横目で見ると案の定、美奈ちゃんは唇を蒼くして震えている。一緒に来たのは失敗だったか。しかし幽霊なんて本当はいるはずないんだ。
「君は本当に幽霊だと?」
「見間違いじゃありません。今でもはっきり思い出せます。あ、でも何か科学的な理由があるかも知れません」
美奈ちゃんの変容を目にした大工藤くんが気を遣ってフォローを入れた。どうせだったら思い切って見間違いだったことにしてくれた方が、俺としては楽なのだが。
それでも美奈ちゃんの瞳は期待に染まる。
「そうでしょ? 銅像が動くのだって音楽室の絵が睨むのだって、何か理由があるんだよ! ね? ミッチー」
「まあ、そうだね」
これで美奈ちゃんが納得してくれれば俺のやることは無くなるはずで、だけどそんなことは望むべくもなかった。
「大工藤くん。悪いが少し調査に協力して欲しい」
「はい! 任せてください。アルセーヌ・ルパンにも、シャーロック・ホームズにも仲間はいました。僕も頑張ります!」
名探偵としての活躍に逸る大工藤くんを眺めていると、リビングのドアが開いて、大工藤くんの姉らしき人物がコーヒーを運んできた。ちょうど喉が渇いて来たころだし、俺は軽度のコーヒー中毒で、このおもてなしは実にありがたい。
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