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校庭の一番奥。銅像が歩いていたという、鉄棒と雲梯が並んだ現場には木製の棒が落ちていた。その棒は十五センチ程度の長さで薄く削られ両端が丸く加工されている。
腰をかがめて拾い上げる。木製の棒は砂ぼこりにまみれていて、どのくらい前から落ちていたのか判別できない。
なんでこんな物がここに……。
校庭を吹き抜ける風が変わる。突然の静寂があたりを支配する。後ろから静かに近づく気配を俺は俊敏に察知した。
「アイスの棒なんか真剣に見つめて、どうしたの?」
気配が声を掛けてくる。それはこのところ頻繁に耳にする筑前さんの声音だった。
「……なんでここにいるんだ?」
「審判だよ。私がサッカー審判員の資格もってるの、知らなかった?」
「知るわけない」
「酷いね~。女の子に冷たくばかりしてると、歳取ってから後悔するよ」
「いや……聞いたこと無かったから。他意はないんだ」
「タイはないしヒラメもないとか言うんでしょ? どーせまた」
得意げにつまみあげて見せていた審判員証から手を離す筑前さんは、俺の中学時代の同級生。とは言っても筑前さんは一年生の夏休みに引っ越していったから実のところ彼女に関する記憶はあまりない。
どうやらサッカーの試合は終わったらしく、さっき一瞬訪れた静寂はそのせいだったようだ。今はそれぞれのチームが集まってミーティングをしている。
「それで、どうしたの? そのアイスの棒」
「いや……ちょっと調査を」
「ふーん。何の事件?」
「秘密だ。探偵にも守秘義務がある」
いい大人が幽霊調査をしているなんて、あまり恰好のつくものでは無い。
「幽霊がでるの」
美奈ちゃんが俺の儚い望みを打ち砕く。美奈ちゃんは筑前さんをバーネット探偵社の助手だと認めていて案外気楽に情報を流した。
「えっ、なに? 幽霊? どこに? 学校?」
「まあ、落ち着いてくれ」
案の定、好奇心全開で身を乗り出してくる筑前さんは、まるで飼い主が決まったばかりのペットショップの子犬のよう。目を合わせると、ようやく鎮まる。
「落ち着いたよ。どうぞっ!」
「どうぞっ、て……。美奈ちゃんの同級生が幽霊を目撃したっていうから、調べに来ただけだ」
「へぇー、そうなんだ。で、見つかりそう?」
「見つけるのが目的じゃ、ない。むしろいないという証拠を探している」
「あっ! だからその棒、持ってるんだね!」
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