第1章

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「何か分かったのか?」 「溶けてなくなったって事でしょ? アイスの幽霊」 「……」  一瞬でも期待をいだいた俺が甘かった。溶けて無くなるような幽霊だったら、ピークシーズンである真夏に活躍できるはずがない。寒い冬場にしか出てこれない幽霊なんて暖かい炭酸飲料みたいなものじゃないか。 「アイスの幽霊は、いまのところ関係ないんだ」 「そう? じゃあなんでアイスの棒なんて残されてたんだろ。ますます謎は深まるね」 「いや、近所の子どもがここでアイスを食べたというだけの話だろう」 「こんなに寒いのに?」  筑前さんもなかなか鋭い。確かにこんな寒空の下、わざわざ吹きさらしの校庭でアイスを食べるのも不自然か。学校の校庭は、不審なものが無いかどうか先生がチェックするから、夏からずっとここにあったという事もないだろうし。 「一応、手掛かりとして保管しておくか」 「私もサッカークラブの子たちにそれとなく聞いてみるよ。なにか気付いた子もいるかもしれないしね」 「ああ。ありがとう」 「あ、あと先生にも訊いてみる? 教頭先生だったらいるよ」 「それは都合がいいな。是非頼む」  銅像が無くなったことに関しては学校関係者に話を聞く必要があって、伝手の無い俺はどうやってその関係者に接触するかが検討課題だった。忙しい先生たちが、幽霊話をする私立探偵に気軽に会ってくれると考えるほど、俺は楽観主義ではない。  美奈ちゃんはさっさと鉄棒に取り組んでいて、集中するその顔は幽霊なんか忘れてしまったよう。万力くんは校庭の端までの見回りを終えて、ごみを拾って戻って来ていた。 「教頭先生がいるのかあ」 「どうした?」 「ちょっと苦手なんです。落ち着かないっていうか」 「怖い先生なのか」 「いや、全然」  筑前さんが来賓用玄関の前で背の高い男性と喋っている。話はすぐにまとまったようでこちらを指さして近寄ってくる。大工藤くんは「やっぱり向こうも見てきます」なんてつぶやきながら校庭の反対側へ走り出す。直後に、筑前さんを追い抜いた教頭先生が愛想よく駆けて来た。    「初めまして。六年二組の権田原の保護者です。いつもお世話になってます」 「権田原さんの。そうですか。権田原さんはいつも明るくて、とてもいい子ですよ」
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