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「いやいや。銅像は撤去されたんですよ。ちゃんと業者の人が持っていきました。私が立ち会ったんで間違いないです」
万力くんは、たまたまその撤去作業を見かけたという事か。しかしそれならなぜ万力くんは教頭先生に気付かなかったのだろう。
「なぜ設置したばかりのものを撤去するんです?」
「さて、詳しい話は……。なにか問題があったんでしょう」
「歩く銅像だけではありません。音楽室の肖像画が睨んで来たり、廊下に日本兵までいたようですが」
「……他には何を見かけました?」
教頭先生は一瞬ひるんだように言葉に詰まった。俺はその事に気付かないふりで話を続ける。
「ほかは何も」
「幽霊を見たといってる児童の名前は?」
「それはお答えするわけにはいきません」
「そうですか……」
教頭先生は何か吟味するように沈黙した。手で口元を押さえ、しばらく考え込んでいる。俯き加減で表情は読めない。
筑前さんが期待に満ちた目で見つめる。美奈ちゃんは救済を求める子猫のように息をのんで審判を待つ。万力くんはどこかへ行ったっきり姿が見えなくなっていた。
「もしかすると……」
「もしかすると?」
「心当たりがあるかも知れません。ちょっと確認しておきますんで、後でまた来てもらえますか」
「心当たりというのは」
「それはちょっと待ってください。月曜日の放課後、六時くらいでどうでしょう」
月曜日は遠出する予定もなく、六時に小学校に来るくらいわけはない。しかし権田原不動産大番頭の馬場場さんは、原鶴温泉の物件を見に行くはずで不在。美奈ちゃんの夕食をどうするかがちょっとした問題になる。大人がいない時に子どもに火を使わせるわけにはいかない。
「ミッチー。私も行っていい?」
美奈ちゃんが、俺の手をつかんで訊ねる。
「夜の学校に?」
「うん。私も自分で確認したいし、ミッチーがいれば平気だもん」
返事を戸惑う俺を飛び越えて、教頭先生が同行の許可を出す。「頼みもあるから」などとぼそりと呟いた声が妙に気に障ったものの、拒絶すべき理由もない。それに美奈ちゃんが正体に納得さえしてくれれば、幽霊調査なんてその瞬間に完結する。
話を聞いていた筑前さんが、同行できないことを、一人で勝手に悔しがっている。その日は田舎から父親が出てくる予定なのだとか。
「じゃあ、美奈ちゃんと二人でお伺いします」
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