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「お待ちしています。それから、児童が動揺するといけないんで幽霊の話は内密にお願いします。それじゃあ権田原さんも、よろしくね」
美奈ちゃんは、なぜ自分がよろしくなどと言われるのかピンとこないまま、いつもの笑顔で元気に答えた。
万力くんは結局戻ってこなかった。
翌日、俺は商店街はずれのビルの三階にある『蒲谷新報社』を訪ねた。
この夏休み明けに設置された銅像。その建立除幕式の模様は故郷新聞に掲載されていたという。残念なことに美奈ちゃんが言っていた当の故郷新聞は、既に廃品回収に出してしまっていて内容を確認することが出来ない。そこで発行元である蒲谷新報社にまで確認にきたのだ。
幸いなことに故郷新聞には権田原不動産も定期的に広告を出していたし、俺のバーネット探偵社も開業時に、一度だけ片隅に掲載してもらっているから、知らない仲ではなかった。
それで営業日が不定期なことも、記者はほとんど毎日事務所に住み着いているのだという事も俺は知っている。
「こんにちはー」
「……うーい」
ワンテンポ遅れて遠い返事が聞こえ、書類のかき分けるような物音と共に、全体的にもっさりとした壮年の男が現れた。右足を引きづりながら大儀そうに近づいてくる。
「なんでぇ。珍しく客かと思ったら、あんちゃんか」
男はこの出版社で記者と営業と編集と校正と企画と管理という、経理以外のすべてのことをひとりでやってる人で、巷では『固めのブンさん』と呼ばれている。足を使った地道な裏付け取材は、俺たち探偵の仕事と通じるものがあった。
「故郷新聞のバックナンバーを見せていただきたくて」
「おう、あるぞぉ。一年分はここにおいてある。それより前だったら倉庫だがな」
「九月の分です。蒲谷小学校の銅像除幕式の記事、その号ですよね」
「ちょっと待ってな」
ブンさんはなにか手許をがさがさと探り、すぐに「ほら」と故郷新聞九月号を投げてよこす。俺は積み上げられた雑誌の上に落ちたそれを手に取って確かめる。目的の記事は、なんと一面トップを飾っていた。
「村下市長まで来てたからよぉ」
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