第1章

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「その男の子も特撮の観すぎかゲームのやり過ぎだろう。小学六年生に取ったアンケートだと、人間は死んだら甦ると答えた子どもが四割もいたそうだ。それに銅像だって、最近じゃあリアルすぎて本物と区別がつかないからな」 「その、電気仕掛けとはどういうものでしょう」 「しらね。企業秘密だと。俺もたまたま配線をやってるところを見かけたから気付いただけで、それがなきゃ存在すら教えてもらえなかっただろうな。でもな。からくり人形みたいに歩きはしないぜ。なにしろ足がついてない」 「配線……ですか」  配線があったとすると地面に埋められていた塩化ビニールの筒は恐らく配管なのだろう。つまり銅像の中に何か機械が入っていて、その機械が配管を通ってどこかとつながっていた。かなり大がかりな仕掛けだ。 「そこを調べるんだったら、元気技研工業の連絡先くらい教えてやるぞ。秘密だってっからどこまでわかるか知らんが」 「ありがとうございます。それから銅像を制作した黒崎造形も。ところでこの銅像のモデルになった二羽惣之助さんというのは、もしかして市長のご先祖かなにかではありませんか?」 「ああ……。村下市長の高祖父にあたる人物だ。村下市長はこの辺のサラリーマン家庭に生まれたんだけどな。村下一族の婿養子に入ったおかげで大きな支持母体を得ることが出来たのさ。今のうちからこんな銅像を仕込んでおいて、選挙が近づいたら自分との関係を披歴でもするつもりなんだろ。そんな事に利用される故郷新聞も情けないもんだけどな」 「ブンさんは、以前政治記者をなさってたんでしたっけ」 「昔の話だ。大物の都合に振り回されるのは大手出版社の方が余計に酷い。ニッポンのジャーナリズムも、地に落ちたよ」  ブンさんは大手の日平新聞社で十数年政治記者をやり、その後社会部への転属とともに福岡支社への異動したという経歴の持ち主。その福岡時代、ブンさんは逃走した銀行強盗の潜伏先を突き止めて裏どり取材をしているところで、当のその強盗と鉢合わせして、逃げられてしまった。  編集局長からも警察からもこっぴどく叱られた挙句に販売管理部へ異動させられて、へそを曲げたブンさんは、会社を辞めて今では小さな故郷新聞社でなんでも屋をやっている。枯れたように見えるけど、年齢を計算するとまだまだ脂の乗った四十代だ。
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