第1章

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 このあたりの相場は一坪三十万円程度。テーブルの上の資料を見るに、問題の土地は二百坪だから時価でいえば六千万くらい。ダンゴ女の要求は法外だろう。  ひとつわかった事は、この深みのある男性はやはり社長だという事で、もうひとつわかったのは、ダンゴ女がそのような相手の立場を理解したうえで吹っ掛けているという事。  わからないのは、この女性がさっきからずっとチラチラ俺を盗み見ている理由だ。 「お兄さんは、ここの事務員さんなの?」不気味な猫なで声が俺に向けられる。 「まあ、そのようなものです」 「そう。アタシは結構不動産売買をやるんだよ。お兄さん良い男だねえ。今後贔屓にしてあげるからね」  ダンゴ女の頬が歪にひきつったのは、もしかして愛想笑いのつもりだろうか。 「一億なんて金、出せるわけがない。それにもともとあの土地は、うちの会社の物なんだ」 「それが結論かい?」 「い、いや。あの土地が使えなくなったら本当に困るんです。工場にもお金をかけてるし借金もしてます。これから別の場所に移るなんてとても……」 「煮え切らないねえ。アタシだって買った土地をそのままの値段でアンタに譲る義理なんて無いんだよ。マンションを建てて人に売れば、儲けは出るんだから」 「ちょっと待ってください。考える時間を貰えませんか」 「待てば一億だすの?」 「それは……」 「あのねえ。あの土地が必要なのか、要らないのか。金を出すのか出さないのか。それだけの事でしょ。さっさと判断しちゃいなよ」  そんなこと言われたって、一億なんて大金、いきなりポンと払えるものではない。しかもお金を払っても何かを得るわけでもなく、現状が維持されるだけなのだ。 「よくそんなんで社長なんてやってられるねえ。まあ、わかったわ。一億キャッシュが無理ってんなら、あの土地を貸してやるよ。ひとつき百万円でね」  年間で千二百万円。かなり割り引いたような印象も受けるが、実は五年間で時価を超えてしまう。それでも社長は、そのくらいなら払えそうかと弱気な目の奥で計算を始めた。 「権利書を買わないってんなら、もう今日のところは用は無いね。時間をやるからしっかり考えなよ。いいかい。大人しく賃料を支払うか、それとも建てたばかりの工場を撤去して借金だけ残すか。考える必要もないと思うけどねえ」
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