第1章 バンダナの向こうにはとっておきの女性が

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 ある夏の夜のこと。 僕は友人の田原浩介(たはら こうすけ)に自宅近くの公園で黒いバンダナで目隠しをされた。 「どうしたんだ、急に」 特に慌てることもなかった僕こと、井下純(いのした じゅん)。 「今、とっておきのやつと会わしてやるよ」 田原さんの顔は見えないが、笑い方で何か企んでいるような気がする。 「とっておきのやつ?誰だよ」 そう言いながらでも僕はある人物を想い描いていた。 「まあ、待てよ。もうちょっとしたら来るからよ」 僕は田原さんと話しながら2、3分待った。 すると、何やら複数名の女性の声が聞こえてきた。 「お!来た来た」 聞こえてくるのは女性の声で、その中で一人だけ、聞き覚えがあった。 やっぱりあの子かな!?と胸の鼓動が高鳴っていった。 女性陣の方も興奮気味で、 「ちょっと待ってよ、一体誰と会えっていうの!?」 この声はきっとそうだ、間違いない。 そう思いながら僕は辺りの様子をうかがっていた。 「ようし!そろそろいいだろ。井下、今バンダナ外してやるからな」 それを外された後、僕の目はチカチカして見えにくかった。 そして徐々にはっきり周りが見えてくると、目の前より少し離れた位置に案の定の女性の姿がそこにはあった。 ―――菅沼愛(すがぬま あい)という名の。 相手もバンダナで目を隠されていたようで、それを外してもらってから僕に気付くまで少しだけ時間がかかった。 「あれ?井下君じゃない。どうしてここに?」 「それは僕も同じ意見だよ。愛ちゃんこそどうしてここに?」 その質問には答えず、怪訝そうに僕を見つめていた。 「何でそんなに疑わしいような目で見るんだよ」 「いや、そういうわけじゃないけど、どうして目の前にいるのが井下君なんだろうって思ってね」 「なんだよ、僕じゃだめなのか」 またもや質問には答えず、彼女は友達に話しかけていた。 田原さんは微笑を浮かべながらこちらを見てこう言った。 「な?とっておきだろ?」 「どうして知ってる?」 「だって、この前二人で飲んだ時言ってたじゃないか」 僕はその時、酔っていたせいか自分でカミングアウトした記憶がない。
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