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僕はすぐに竹田君に電話をした。
田原さんはすっかり真顔に戻りこちらを凝視している。
何度か呼び出し音が鳴り、つながった。
「もしもし、竹田君?ちょっと訊きたいことがあるんだけど今どこにいる?」
相手は眠っていたのか、
「いま…、今…。自宅っす」
低い声でそう聞こえた。
「ところで、何で竹田君が僕の好きな女の名前知ってるんだ?」
「…え…、本人から聞きましたよ?」
「本人て愛ちゃんのことだろ?」
「…はい…」
僕は彼女に告白したこともないのにどうして知ってるんだろ…。
そう思いながら僕は頭を傾げていた。
「…井下さん、ひとつ訊いていいッスか?」
ああ、いいよといいながら携帯を左から右に持ち替えた。
「愛さん、気付いてないとでも思ってるんスか?バレバレですよ、井下さんの態度を見てると」
それを聞いて僕はナイフで心を刺されたような衝撃をうけた。
事の発端が愛ちゃんだったとは…。
あまりにも意外だったので僕は言葉を失った。
そして、しばらくの間沈黙が続いて、竹田君の方から言葉を発した。
「井下さん?何もしゃべらないけど大丈夫ですか?」
それを聞いてハッとなり、僕は我に返った。
「あ、ああ。大丈夫だよ。ちょっと頭の中が真っ白になってしまってね」
電話が長くなってしまったせいか、田原さんは親指を頭より後ろへと突き出していた。
何やら苛々しているように見えた。
「帰るからな!」
そう言い残し、彼は行ってしまった。
そして僕は一人、ベンチに座った。
「誰かいるんですか?」
「今、田原さんがいたけど帰っちゃった」
「田原さんもきっと知ってますよ、愛さんの話し」
僕はそう言われ再び黙ってしまった。
そして今度はそれほどの沈黙もなく、話し出した。
「どうして、愛ちゃんは僕の気持ち知ってるんだろ?言ってないのに」
「言わなくても態度ですよ。さっきも言いましたけど」
態度?どういう態度だろう?
わからなかったが年下の竹田君に訊くのも何だか癪に障る気がするので後で田原さんに訊こうと思った。
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