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「なあ、おい、益田」
「何ですか?」
「この体勢はなんだ?」
「決まってるじゃないですか、押し倒しているんですよ」
ニコリとさわやかな笑みを浮かべ、彼は言った。
「離せ、今すぐ」
「嫌です」
変わらず笑いながら拒否された。
やっぱり腕は動かなくて、益田は俺の脚の間に体を収めているし、彼の片足が俺の片方の太股に乗り上げてもいる。
反撃するのは難しい。
どうしたものかと考えてみた。
とりあえず殴ったりと暴力的な事は、今さら感もあるが避けておこう。
……実行出来ないし。
まず、話し合ってでもみるか。
「益田、何でお前はやたらとこういう事を俺にしてくるんだ?」
「したいからですよ」
なんだ、やっぱりセクハラか?
そう尋ねると、一際口元を吊り上げ、
だけど、おい、目が笑っていないぞ。
「やだな、愛情表現ですよ」
どこかで見たような答えを返された。
そんな訳、あってたまるか!
「どこの世界に、縛ってキスマークつけて写真撮ったり、突然押し倒す愛情表現がある?」
「少なくともここにありますね。それに先生……」
そこで益田は言葉を止め、やっぱりいいやと言うのをやめた。
……何なんだ。
動かせるのは口ぐらい。
せめて今の続きを言わせようと、俺は唇を動かした。
いや、正確には、動かそうと、した。
開いた口に、当たるのは低い温度の空気のはず。
だけど被せられた、熱い皮膚。
これは……キス、されているのか?
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